2012年11月19日

チベ物語

「チベ物語」

 ある晩、門前の妖怪小僧はこのような夢を見た。牧草で満ちた緩やかな丘陵と一面の空、牧草を食む動物たち。その中で一人たたずむ精悍な顔立ちの青年は門前の妖怪小僧が見慣れぬ僧衣を着ていた。
 他にも色々な経験をしたような気がするが、門前の妖怪小僧が目を覚ましたときに覚えていたのはこれだけだった。まだ眠たい目をこすりながら、しかし夢で見た青年の横顔だけがなぜだか忘れられずにいた。
「不思議なこともあるものだなあ」
 門前の妖怪小僧は今日も聞きかじりの経を読み上げる。百年間読み続けているが、相変わらず意味はわからない。
posted by いさや at 01:12| Comment(4) | 落書き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年10月18日

午前四時の憂鬱

 生まれた時から私はお姫さまであり、ゆくゆくは世界を統べる王になるのだと、繰り返し繰り返し、言い聞かされて育ってきた。長時間椅子に座り続ける練習も、重たい王錫を振る練習も、威厳を持って命を発する練習も、全て優れた女王になるための鍛錬なのだという。
 優れた女王であるならば、臣下に死罪を言い渡さなければならないこともある。もちろん心苦しいことではあるが、止むを得ないものでもある。
 私が判決を告げると、彼は項垂れた。長い時間が流れた。彼はのろのろと立ち上がり、お手製の絞首台で首を吊った。
 振子時計の振子みたいに死体は揺れていたが、やがて停まった。
 私は椅子に腰かけてそれを見上げていた。
 王錫代わりの麺棒を手放し立ち上がる。
 六畳一間の狭い部屋の中で、私は一体何者なのだろうと考えてしまう。
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2012年06月20日

鈴をつける

『鈴をつける』

 私が顎をツンと突き出すと、彼は蚊の鳴くような音のモーター音を鳴らして、そろり、とアームを伸ばした。その指先で摘んでいるのは、豆粒よりも小さな鈴のついたチョーカー。ちりん、ちりん、とその居場所を彼に語りかける。
「大丈夫、怖くない」
 上手にチョーカーを結べたら、彼にキスしてあげようと思う。それもとびっきりの!

***

 タイトル競作に出し損ねた何か。
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2012年06月10日

東京ヒズミランド

 夢も魔法もない世界と聞いて、正直に言えばとても期待していたのだ。望めば叶う世界は甘ったるすぎて、お菓子は食べすぎると胸やけを起こすように、私にはもうおなかいっぱいだったのだ−−なーんてことを言うと、女の子たちはせっせと反論を試みる。結局のところ、隣の芝生が青く見えたに過ぎないことを、私は転校一日目にして思い知った。

 人が嘔吐する瞬間って面白い。
 男も女も老いも若きも、みんな一様に目を白黒させ、グッ、だか、ゲッ、だか呻くのだ。そしてびちゃびちゃと白色茶色、色とりどりのゲロを吐く。何が楽しくて悲しいのか知らないけど、みんなげろげろ吐く。「大丈夫ですか」と声を掛けてペットボトルの水を差しだしても、彼らは私に気付かないか遠慮するかで、私が彼らの背中を擦れる機会はほとんどない。道行く人も見て見ぬふり。でも、そんな人々のおなかにも同じようなゲロがぐるぐる渦巻いているのだろうと考えると、私は妙な心地になる。そういう人たちが群れて海を埋め立てたり鉄筋コンクリートでビルを建てたりするのだ。働き蟻よろしく重たい荷物を抱えて右往左往。それであの七色のネオンの海ができるのだから、とても不思議なことだと思う。

***

タイトル競作。○:3、△:1、×:1

以下、long ver.続きを読む
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2012年04月24日

砂時計の国

『砂時計の国』

 高さ3cmの小さな砂時計の中には宇宙が詰まっている。きっかり3分間の寿命だ。その度に砂時計の国は滅亡と再生を迎え、人々は記憶と歴史を失い創造する。
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あるホームランヒッターの話

『あるホームランヒッターの話』

 とどのつまりは、私の不注意が原因だったと思うのですが、ある試合でホームランを打ったときに、球が私の魂も乗せてかっ飛んでいってしまったのです。呆けたように立ちつくしてしまいました。最高の一打と言えば聞こえはいいかもしれませんが、結局のところ、私は私を失ってしまいました。その私は今どこにいるのだろうと考えると、もしかしたら、ある野球少年の部屋の棚の上かもしれません。それはそれで悪くはないものだとは思うのですけどね。
posted by いさや at 10:09| Comment(0) | 書き物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

人の一部を愛するということ

『人の一部を愛するということ』

 僕は彼女の形の良い右手が好きだったので、交際を申し出たところ、彼女も僕の左手が好きだったと言うではないか。お互い照れながら握手した。僕の左手と彼女の右手は仲良く歩きだす。残された僕たちは「じゃあね」と片手を上げて別れた。
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2012年04月16日

(無題2)

(無題2)

 ……一体何が起こったのだろう。気が付いたら私は吹っ飛んでいた。雲を突き抜けコンコルドを追い越し、視界の端に地球の円形を認める。このまま空気摩擦で死んでしまうのか。気が遠のくうちに高度が下がり、懐かしの祖国、故郷、そして我が街、我が家が見えてくる。天文学的な確率の幸運に感謝する。最期がここなら思い残すこともない。が、神様は意地が悪いらしく、私が突っ込んだのは隣家の幼馴染の部屋だった。柔らかい感触と、悲鳴。私は頬を叩かれ、気を失った。

***

 茶林プレゼンツ。
 全ての元凶はこのツイート。
「ochabayashi@isayann そうだ胸に埋めたら張り飛ばされて地球一周してきて胸のクッションで助かったぜっていう話を書 via web」
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(無題)

(無題)

 真珠である。親指大の大変立派なものである。あんまり立派だったので祭壇に飾ることにする。浅瀬に作られた大理石の祭壇に飾る。暮れ泥む空。波が寄せて返す。手のひら大の深紅の絹に真珠を乗せると、ちょうど夕陽と重なる。眩く、とても目を開けていられない。高鳴る潮騒は幻聴のようで幻聴ではない。間もなく沈む祭壇、潮位はぐんぐんと、しかし静かに高度を上げていく。私は真珠を拾わなければならない。一度だけ天を仰ぎ見て海に潜る。潮位の上昇速度よりも速く泳ぎ下っていくと間もなく一点の深紅と、それよりもさらに小さい真珠を発見する。深紅に迫るほどにそれは大きくなる。視界の端まで深紅に染まる。次いで、真珠色に染まる。私の手のひらが真珠の表面に触れる頃には辺り一面は真珠の地平である。見上げれば、暮れ泥む空。寄せて返す波の音は幻聴のようで幻聴ではない。音のする方へ歩き出す。凹凸もなく滑らかだった地表が次第に色彩を帯びだす。草地に変わり、木々が生まれ、ほとんど洞窟のような森を歩く。その彼方には常に黄金色の光に溢れる出口がある。潮騒は止まない。幻聴のようでしかしやはり幻聴ではない。歩く。歩き続ける。そうして出口を抜けるとそこは浅瀬である。既に踝は海水に浸っていた。振り返れば森はない。全方位にわたって水平線が広がる。ただし墓石のような大理石が立っている。歩きだす。足元に光るものを見つける。

***

 一行幅の細長い紙に両面印刷してメビウスの輪にしてみて、エンドレスな物語を作ってみやう、という話の流れで。
 しかしこれは長すぎるだろう。(583字)
posted by いさや at 22:38| Comment(0) | 落書き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年04月02日

きつね味/NOIFproject

posted by いさや at 00:01| Comment(0) | 書籍掲載他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする